関係性とジャグリング
チームルーティンというものがあります。
同じ道具を複数人で扱うことで、一人ではできない技や表現を模索できるジャンルです。
今作には稲葉悠介と谷口友梨の2人のシガーボックスジャグラーがいます。
作中には二人でシガーボックスを行うシーンがあり(なかったらガッカリですよね)、これはチームルーティンとして創作しています。
この稲葉と谷口さんによるシガーボックスチーム、実はまあまあ難しいんです。
と、言うのも、二人がシガーボックスジャグラーとしてルーツも得意領域も異なるからです。
「でも、同じシガーボックスでしょ?」
と思うかもしれませんね。
バレエとブレイクダンスのプレイヤーがコラボする、みたいなイメージかもしれません。
(それはそれで刺激的なものが生まれそうで面白いですが)
殊に、シガーボックスは技にある種の系統があり、分野が独立している傾向が強い道具だと思います。
稲葉は17年やっていますが、多くの人が出来ない高難易度技ができる一方で、一、二年目の人が当たり前のようにやってる基礎的な動きが出来なかったりします。
上達の”向き”が一方向ではないのです。
チームルーティンは基本的に実力、技や立ち振る舞いのスタイル、得意な系統が近いもの同士の方が上手くいきます。
表現の下地となる部分が共有できているからです。
そのため、仲間選びはなるべくこの”向き”が近いところで行うのが、一般的には良いです。
(もちろん例外、というか異種間コラボみたいな良さを発揮する例もたくさんありますが)
稲葉と谷口さんは、シガーボックスにおけるファンダメンタルな部分が異なるので、真正面からチームを組むと、お互いの良さを打ち消し合う結果になりやすいと思います。
分野ごとのアンバランスな実力差や、それを隠すための消極的な演出をすると、フックが弱くなりグッと刺さるものが少なくなるでしょう。
例えば競技としてのパフォーマンスを作るのであればこれは結構不利な要素な気がします。
しかし、これはジャグリングの優劣を決める大会のルーティンでもなければ、5分で1回のショーケースでもありません。
今作は”演劇”であり、世界には”脚本”があって、二人は”役”を演じています。
稲葉と谷口さんには、”役”があり、そこには”関係性”があります。
物語には文脈があり、ジャグリングはあくまでそこに置かれるもの。
完璧な統制を目指す必要が無いんです。
稲葉の役と谷口さんの役は、対等な関係ではありません。
また脚本の状況に応じ、その場の主導権が移り変わります。
だから同じことを同じようにやれなくてもいいんです。
いわゆる競技会や発表会で披露するチームルーティンなら、およそ御法度となるであろう、同じ技を何度も(精度の違う者が)行うという構成も、文脈に上手く載せることで意味が生まれます。
それを多分”個性”と呼ぶんだと思います。
脚本を読みながらジャグリングをしていくと、そういう、技で語る瞬間が生まれます。
そういう瞬間を選んで、紡いでいって、”ジャグリングで演劇をやる”aubeを作っています。
…作れていけたらいいな笑
読み取ってくれたら嬉しいです!
今回はこんな感じ!
(文:稲葉悠介)
【創作の小窓って?】
稽古場で起きる素敵な一瞬を切り取って、少しだけお届け。
aubeの作品ができる道程を、動画や写真と一緒に主宰 稲葉が言葉にしてみます。
あなたも覗いてみませんか。
毎週ひとつ…とはきっといけないので、不定期にお届けします。
面白いなと思ったら…
2025年12月13日(土)14日(日)目黒区は大岡山劇場で
aube vol.6「惑星オーブ滅亡から」を上演します。
チケット代は劇団史上最安の1000円。
なかなか捨て身です。その想いを以下に綴りました。
お時間あったらこちらの記事も覗いてみてくれると嬉しいです。