男と女が議論している。
いや、議論と言うよりは女の熱弁に男はたじたじだ。
彼女の言葉は男に、男の触れられたくない、絶対に見つめたくない、でも絶対に向き合わなければいけないものを、遠慮なしに突きつける。
逃げたいのに、でも男はどうしても逃げるための足が動かない。
というシーンなんです。
ちょっとカッコつけすぎましたね。
aubeは一言で言うと「めっちゃセリフを喋りながらめっちゃジャグリングをする」劇団です。
そんなことを始めたのには色々な理由があるんですが、それはまた別の夜にとっておきましょう。
市川卓さんと村岡央望ちゃんのこのシーンで、何で卓さんはジャグリングをするのか?
aubeの創作はそこを考えるところから始まります。
だって、人はどんな感情が昂ってもジャグリングはしませんからね。
そもそもトンチキな話なんです。
でも、だからこそそれを成立させたいんですよね。
このシーンで、卓さんにジャグリングをさせるのは央望ちゃんの言葉(セリフ)です。
彼女の言葉(セリフ)がどうしようもなく卓さんを突き動かして、ボールを投げさせてキャッチさせてしまう。
お客さんにさえそうと思わせたくて、ああでもないこうでもないと悪戦苦闘しています。
“すなわち”なシークエンスがしたい
意味がわかりません。
でも役者として役に向き合った卓さんが、央望ちゃんのセリフにもっともふさわしいジャグリングを絞り出していました。
僕もそうですが、多くのジャグラーは音楽に合わせてジャグリングをします。
その盛り上がりに、静けさに、意外性に、ジャグリングをのせたい。
あるいは、誰かに見て欲しくて仕方ないジャグリングに、もっともふさわしい音楽を選んで寄り添ってもらいます。
そう思って自分の作品を作っています。
aubeは劇団なんで、言葉で伝えます。
ジャグリングに身を捧げた連中の集まりなので、その言葉のためにジャグリングをしたり、逆にジャグリングのために言葉を紡ぐこともあります。
卓さんのシーンは、そのどちらもあります。
音楽のように、感情と言葉を感じとって、ふさわしいジャグリングを探しています。
あぁ面白い。言葉にマッチしたジャグリングがピタリハマった瞬間、気持ちのいいひらめきが稽古場全体に広がります。
卓さん演じる男にとって、ボールは熱い感情の塊のようなものです。
持っているだけで火傷しそうで、投げ捨ててしまいたいもの、でも、投げ捨てられない。
時には誰かが拾って渡して、時には誰かが押し付けて、投げても投げてもその手に戻ってきてしまう。
そんな面白いシーンができあが…るかな?
そんな創作の小窓でした!
次回も乞うご期待!
(文:稲葉悠介)
【創作の小窓って?】
稽古場で起きる素敵な一瞬を切り取って、少しだけお届け。
aubeの作品ができる道程を、動画や写真と一緒に主宰 稲葉が言葉にしてみます。
あなたも覗いてみませんか。
毎週ひとつ…とはきっといけないので、不定期にお届けします。
面白いなと思ったら…
2025年12月13日(土)14日(日)目黒区は大岡山劇場で
aube vol.6「惑星オーブ滅亡から」を上演します。
チケット代は劇団史上最安の1000円。
なかなか捨て身です。その想いを以下に綴りました。
お時間あったらこちらの記事も覗いてみてくれると嬉しいです。