いつもaubeを応援してくださって、本当にありがとうございます。
aube主宰の稲葉悠介です。
先日ですが、無事、aube vol.5「ビストロ・オーブへようこそ」の幕を下ろすことができました。
劇団として初めてのオンライン上演、皆様にも普段とは違う環境で見てもらう上で、ご不便もおかけしましたが、おかげさまでたくさんの人に見ていただきました。
また、同時期に行っていたクラウドファンディングも、のべ50人以上の方に支援していただきました。
多くの方のご支援のもと、成り立った公演だと思います。
本当に本当に、ありがとうございました。
さて、すでにお聞き及びかもしれませんが、今作の終演をもって、aubeはしばらくの間、長編作品の劇場上演をお休みします。
具体的には最低2年間です。この間、次回作となるaube vol.6は上演しません。
「ビストロ・オーブ」のアンケートやtwitterコメントには、「次回も楽しみ」「次回も見ます」というお言葉をいただきました。とてもありがたい限りです。
少なくない数の人たちにそう言っていただけるaubeは本当に幸せ者です。
ですので、今回のこのお知らせは本当に心苦しいです。まずは、ごめんなさい。
なぜこのタイミングでこういう決断を下したのか、少し長い言葉でお話しします。
終演後、日常に戻っていく中でなかなか時間と体力を取り戻せず、遅くなってしまってごめんなさい。よかったら読んでください。
この度の「お休み期間」は、「稲葉の修行期間」です。
aubeという団体は、良くも悪くも完全に稲葉のワンマン団体です。あらゆる企画が稲葉からのトップダウンで行われ、稲葉が劇場を決め、稲葉が上演日を決め、稲葉が脚本を書き演出をし上演をしています。
劇団なんてだいたいどこもそんなものと言ってしまえばそうなんですが、こう書くとすごいですね。よくまあ4年も続いてきたものです。
ともかく、aubeは稲葉の熱意と稲葉のイマジネーションによって動いている団体です。(ちなみに、それだけで成り立っているわけではもちろん無く、aubeを成り立たせているのはほとんど稲葉以外の人の多大な厚意と献身です。)
今僕は、この体制で動くaubeが、頭打ちになってしまっていると感じています。
aubeはこの4年6作でかなり成熟しました。
「ジャグリングを感情やシーンの表現として扱う演出手法」や「ジャグリングをしながらセリフやアクティングを行う演技技術」など、舞台上に載る技術もそうですし、スタッフワークや集客のメソッドもここまでの経験からかなり最適化されてきました。
“いつものやつ”がわかる優秀なスタッフさんとやりとりをすることで様々なセクションが効率化されてもきました。
これは本当にありがたいことですし、ここまで投げ出さずに付き合い続けてくれた全ての関係者のおかげです。
でも、だからといって、aubeの作品はまだまだ圧倒的に僕の理想には届かないものでした。
今作、aube vol.5「ビストロ・オーブへようこそ」もそうです。
斬新なカメラワーク、料理をジャグリングで表現、鬼気迫る役者さんのお芝居、美しい舞台美術や照明、気の利いた音響、様々な点で多くの人からお褒めの言葉をいただきましたが、残念なことに、僕の頭の中にあったものは、もっとすごいものでした。
大事なことなので先に断っておきますが、キャスト、スタッフあらゆる関係者は紛れもなくベストを尽くしてくれました。これ以上ない働きを見せてくれましたし、結果として世に出た作品は、人の心を打つに足るものだったのは事実です。
足りないのは、僕の実力なんです。
演出家という役割は色々なものに例えることができるでしょうが、僕は「脚本という設計図を持って各分野に仕事を発注する」役割だと捉えています。
これは僕の本業が建設系の業種だからかもしれません。
この理屈で言うと、素晴らしい働きをしてくれたキャストスタッフは、100%以上に僕の書いた設計図を読み解いて、僕のオーダーを聞き取って仕事をしてくれたと言えます。
では何が足りないのか、そう、設計図が間違っている、もしくは発注が下手くそなんです。
寸法の間違っている設計図をどれだけ丁寧になぞっても歪んだ家しか作れませんし、木と鉄骨の違いがわからない設計者の出す指示は、的を射ず闇雲に無駄な仕事を受注者にさせてしまいます。
「受注者は発注者の実力以上の仕事はしてくれない」というのは、僕の本業ではよく聞く話です。
それは誠意とかやる気とか思いやりの問題ではありません。どれだけ優れた役者さんやスタッフさんがいても、脚本がつまらなくて、演出家が稚拙だと、それ以上の仕事は”出来ない”んです。
そうした状況を打破しようと、演出家とキャストスタッフの間に全体の監理をする部門を作り、効率化を図ろうともしましたが、これも色々ありうまくいきませんでした。
新型コロナの蔓延により多くの人が舞台創作そのものに疑問を感じ始めた結果、実は今作の企画段階では多くの人にオファーを断られるという挫折がありました。これは単に、この時代におけるリスクとリターンを比較した時、僕の企画と脚本が、多くの人にとってリスク以上の価値がなかったからです。
僕が自分の長所だと思っていた「人を巻き込む」力は、実は非常に脆弱なもので、熱意や行動力による訴求が利くのは、平時、皆に余裕がある時だけなのだと、認識し、愕然としました。
それでも、今作を整った形で皆様に届けることができたのは、こんなご時世にも関わらず僕の想いに共感してくれて、身を預けてくれた全ての関係者と、さらにその中の一部の、ものすごい負担を背負ってくれた人がいてくれたからです。
働き方改革も生活との両立もあったもんじゃありませんでした。
僕の脚本が早ければ、もっとスマートだったら、必要のない稽古の時間がありましたし、僕のスケジュール管理や目の届く範囲がもっと広ければ作業時間を多く取れる部門もありました。
それでも形になったのは、一部の非常に責任感の強い人たちが、人の分まで重りを引き受けて歯を食いしばって頑張ってくれたからに他なりません。
それは、そういう重りを誰もが放り投げると、最後はお客さんに行ってしまう、そう思ってくれたからで、それこそが責任感なのだと思います。
このままではいずれ大きな悲劇が起きます。
誰かを著しく搾取してしまったり、あるいはお客さんにとんでもない不良品を届けてしまう日が来てしまうと、僕は予感しています。
年々上がり続ける僕の中の理想のハードルと、それに伴わない僕の実力の差が、心優しい責任感の強い人たちを苦しめているということが、心苦しくて仕方ないのです。
だから僕は、ここで一度修行し直します。
脚本家としても、演出家としても、ジャグラーとしても、今一度ちゃんと勉強をして、姿勢を整えて、技術を磨いて、そうして次の作品に臨みたいと思っています。
根本的には僕は「お客さんが楽しめれば作り手は死ぬほど苦しくてもいい」と思っていますが、それでも現実問題それを仲間に押し付けることはできませんし、そうしてできた作品がお客さんを楽しませることはあまりありません。
これまでは、新作を作ることこそが修行だと思ってがむしゃらにやってきましたが、やはり難しいもので、作品のための創作をしているだけだと身につかない技術や知見があります。
次の作品はもっとさらに面白いものにしたいです。
描きたいものはあります。サーカスと承認欲求の話です。地獄とお金の話もやりたいです。どちらにするか、あるいはさらに違うものにするかは、これからゆっくり考えます。
万全の状態でaube vol.6をみなさまに届ける為に、すこしお時間をいただきます。
よかったら、気長に待っていてください。必ず戻ってきます。
わざわざこんなに畏まって発表したのは、やはりここまでずっと観てくれた、優しい言葉をくださった方々への、せめてもの誠意のつもりです。
悩みながらの創作でしたが、「ビストロ・オーブ」は、次のステージに行くための作品というより、これまで見てくれた人たちへのお礼のつもりで作った作品でした。謝意が伝わっていれば幸いです。
「活動休止」と言わないのは、実は完全に活動休止をするつもりはないからです。
aube名義で、2021年も少しやりたいと思っていることはあります。主に稲葉が中心の小規模なものになるとは思いますが、大事なのはどこでやるかではないので、何をやってもaubeらしく、お客さんのことを想った活動をしていきます。
あまりにも長くなりましたし、あっちこっちに飛んでしまいましたが、今、僕の中にある想いです。
本当にここまで、aubeを応援してくださった皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。
関わってくれた全ての人にはもう頭が上がりません。
また会いましょう。
その時までお元気で。
2021年2月1日 aube 主宰 稲葉悠介